大阪在住の住田雅清は重度の脳性麻痺を持つ障害者。移動は電動車椅子、コミュニケーションはトーキングエイドというキーボードで音声を出す機械を使い、介護者のサポートを受けながら自活する傍ら、ショッキングなライヴパフォーマンスが熱狂的な支持を受けるなど、幅広く活躍。本作は本名のまま「襲い人・住田」役に体当たりの演技で挑戦した初主演作品。


全編を覆う狂気を孕んだモノクローム映像と、耳から離れないノイズ・ミュージック。その実験的なアプローチで世界中から支持を受ける world's end girlfriendが手がける『おそいひと』の音楽は、斬新なカメラワークと相俟って、観る者の身体から鮮烈なカタルシスを放出させる。この中毒性ある濃厚な映像体験に、神経を激しく揺さぶられることは間違いない!


毎回、誰もが恐れをなす危険なテーマに挑み、その先鋭的センスと爆発的発想力から、“要注意人物”として注目される監督の柴田剛。熊切和嘉監督「鬼畜大宴会」(97)、山下敦弘監督「腐る女」(97)の製作に協力し、99年、長崎の原爆音に取り憑かれた男の悲劇を描いた「NNー891102」で衝撃デビュー。「おそいひと」は「第5回東京フィルメックス/TOKYO FILMeX2004」のプレミア上映以来、センセーショナルなテーマのため日本映画界から封殺されつづけてきた問題作。海外映画祭での高い評価が逆輸入し、3年という月日を経て、ついに日本凱旋上映が決まった。


1999年春。柴田は、「NN-891102」を映画祭等に出品、自主上映しながら、次回作を模索していた。柴田は当時、芸術集団“DMT”に加わっており、そのメンバーで、阪神障害者解放センターの職員だった仲悟志が、上司の住田雅清を柴田に紹介する。
障害者の自立支援、障害者解放という住田の活動について話をする中で、障害者とは一体どういう存在なのか、障害者が犯罪を犯した場合、どんな扱いを受けるのかという話題になる。
住田の身体性と暴力、身体障害者と暴力をテーマにした物語は、充分成立するのではないかという発想が生まれ、住田も映画出演に興味を示したため、住田を主人公に、身体障害者が犯罪を犯すという映画の計画が持ち上がる。
この計画は、若手芸術家へのパトロネージュを主旨とする、『もちの木基金』からの協賛を受け、程なく撮影の準備が始まる。もちの木基金の主宰、寺内氏が、神職だったこともあり、近代以前、歴史的な日本の障害者観に関して、多くのアドバイスを受ける。
住田の存在感に負けない配役を目指し、介護者タケに、バミューダ★バガボンドのボーカル、堀田直蔵。女子大生介護者、敦子に維新派のとりいまりが決まり、人が人を呼ぶ形で、大阪芸術大学出身者を中心にスタッフが集結。
2000年夏、撮影に突入。冬には、ほぼ全ての撮影は終了するものの、少数のスタッフによる追加撮影と、編集作業がはじまる。
2002年、ライブドキュメント「ALL CRUSTIES SPENDING LOUD NIGHT 2002」を制作中に、MCRcompanyからシマフィルムを紹介された柴田が、シマフィルムに「おそいひと」の計画についてプレゼン。以後、難航していた作業を、シマフィルムが支援することとなり、2004年、映画として完成する。
 2005年冬に、東京フィルメックスにてプレミア上映される。それ以降、そのセンセーショナルな内容のため、日本での公開が難航する。海外の映画祭での高い評価が噂となり、2007年12月、ついに日本での劇場公開が決定した。


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